有岡くんが演じた滝明久の瞳

シン・ウルトラマンで滝明久役を演じた有岡くんのお話です。長々と失礼します🙇‍♀

 

 

✍微粒子物理学者という役どころ

呼吸をするように難しい専門用語が出てくる役。その全ての言葉の意味を理解した上で滝を演じた有岡くんに脱帽。ただ記号的にセリフを言っているのではなく、滝の言葉として発する、この状態にするのが"演じる"ということだと思いました。
オタク特有のムーブもとてもリアルで引き込まれた。好きな物で仕事場のデスクを埋め尽くすのも、マグカップに数式が描いてあるのも人間味があって最高。
そして「factかよ!」という台詞。この一言に滝明久が凝縮されている。『 fact=事実、真実 』つまり、「マジかよ!」をわざわざカッコつけてこの言い方にしてるの無理、下唇噛んで発音完璧なのも無理(最高)。

 


✍物事に意味を見出したい

序盤に出てくる怪獣に対しての「透明の意味ねぇじゃん!」という滝の台詞。これは、彼が物事に『意味』を見出したい人であり、意味がなければそれは『無駄』、そんな思考を持っている人間だということを一番わかりやすく表している。
しかし、物語が進むにつれて人間の限界を感じ、自分が頑張る意味を見出せず、その結果終盤に出てくる「無知な僕らが何をしたって無駄」という台詞に繫がっているのだがこの話はまた後ほど。

 


✍絶望と希望

有岡担目線で見ると、今作で印象に残ったシーンランキング堂々の第一位はあのシーンでしょ。そうです。ストゼロ、USB、あのシーンです。

自分のやってきた事に自信を持つ滝、だがそれはいとも簡単に覆されてしまい、人間の知識や技術では敵わないとんでもない存在や現象に頭が追いつかない。それでも理解しようと向き合うが、最後、自分たちの無力さを痛感して心がプツリと折れてしまう。いつ死んでしまうかもわからない状況だが、もう手は尽くした。震える手、動揺が隠しきれない。
ウルトラマンに全部任せるのが最適解だよ。神永さん、後はよろしく。」
そう強がって笑ってみせるが、彼の心はもうボロボロ。部屋を出て行った後、階段に座り込み手すりをガンと殴るシーンからは、彼のどうしようもない無力感と悔しさが伝わる。

そして、頑張ることに意味を見出せず、積み重なった苦しさが爆発して自暴自棄になった彼は酒に逃げる。

コンビニで4〜5本ストゼロを買いパンパンの袋を片手に登場する。「まぁーだ仕事してるんですか船縁さん?笑」の声がもう半分泣いてる。人間はおろか神のようなウルトラマンでも勝てないものを前に、完全に諦めモードの滝の心は、「弱点があるはず、それを探すの。希望を持った方が気分良いわよ?」という船縁の言葉にえぐられる。
「希望?馬鹿馬鹿しい。無知な僕らが何をしたって無駄、無駄、無駄でしょ?!」
そう自分で放った言葉も、もはや自分に跳ね返ってくる。自分の言った事に傷付いて、一瞬の沈黙の後、決まりが悪そうに船縁から目を逸らし酒を流し込む。
乾いたその眼には絶望しかない。
しかし、デスクに置かれた神永からのUSBを見つけ、再び希望を取り戻す。
「滝、後をよろしく。」
彼を信頼しての神永からのメッセージだった。希望が見えて熱いものが込み上げたのか、瞬きをせずに画面を見つめていたからかはわからないが、彼の瞳に僅かに涙が滲んだ。

ここの有岡くんの演技がとんでもなかった…。

真っ暗だった眼に再び光が宿り、そこから再起する。神永が託した関係式からゼットンを倒す方法を導き出し、結果地球を救ったのだ。
ストゼロを呷った夜からラストシーンまで滝の服装が変わらなかったことや、部屋にあった寝袋、パンパンのゴミ袋から、彼も命を燃やして懸命に戦ったのだなと…。有岡くんが課されて覚えた宿題でもある『全宇宙を支配する数式』をホワイトボードに書き殴るシーンはまーじでかっこよかった。
人間の脆さ、そしてしぶとさを描く、その役割を担う滝を演じた有岡くんにスタンディングオベーション

 


✍滝くんの瞳

斬新なカメラワークも見どころの今作。登場人物の細かな表情の動きも映し出されている中、何度も出てくる滝の瞳に釘付けでした。
序盤、初めてウルトラマンを目の当たりにした時の眼。彼の中で理解できない事が次々に起こり、興奮と戸惑いと焦燥感でコンタクトが見えるほどガン開かれたその眼を見た時、勝ちを確信しました。(?)

メフィラスのベーターボックスを前に「すげぇ…」とワクワクする瞳も、自分たちでは敵わない技術力に打ちのめされていく瞳も、勝てないと頭では理解しているが悔しさを隠しきれない瞳も、自分のやってきた事は全て無駄だと投げ出しお酒に逃げる乾いた瞳も、希望を取り戻し再び光を宿す潤んだ瞳も…。台詞がなくとも苦しいほどに伝わってくる滝の感情、それらを表情の演技で魅せた有岡くん、最高にかっこいいです。


そこには滝明久が生きていた。


"瞳で演じる"有岡大貴。この役は、滝明久はきっと彼にしか務まらなかった。シン・ウルトラマンを見た人全ての心に、彼の表情が、声が、勇姿が刻まれたのではないでしょうか。