ナゾドキシアター アシタを忘れないで

 

🗝Character🐈‍⬛

•曇竹アシタ
•大海原ヒロシ
•千住タイラ
•ケケ
•死神

 

 

☁Story🌂

 

突然ですが自己紹介をします。僕の名前は曇竹アシタ。名字に「曇」というややネガティブな言葉が入っていますが、世の中には「雨宮さん」など名字に「雨」が入っていても素敵な方はいるので、曇竹だからといって僕が暗いという言い訳にはなりません。…っていきなり何の話をしているのかというと、つまり…僕はそんなに明るい性格の人間ではないのです。
あ、名字は「曇竹」ですけど、下の名前は「アシタ」なので、「明日」つまり「Tomorrow」ということで、明るい兆しはありますよね?

僕はレンタルムービーショップで働いている。
「いらっしゃあせ〜!」
この無駄に声の大きい人は、大海原店長。
「おい、挨拶。アシタ、今ぼーっとしてたやろ?」
まずい。
「すみません。」
最近妙に、心に穴が空いたようにぼーっとしてしまうことが多い。なぜだろう。
「ったく。お前は仕事中に心がどっかに行ってしまうタイプなんやな?」
「はい。少しそうゆうところがあるかもしれません(照)」
「嫌味を言うたんやで?!」
「はっ…すみません!」
「まぁええわ。若いんやから、シャキッとせんと。顔やって愛くるしい顔してんねんから。この店の看板店員になって、雑誌に取り上げられたりしたら…」
「いやいやそんな!僕なんてそんな…あっ、いらっしゃあせ〜!」

来店したのは、常連客の千住さんだった。
「こんにちは。今日はこれを返しに。」
そう言って千住さんが取り出したのは、映画『捨て猫ウォーズ』のDVD。前に僕が勧めたものだ。
「これ、すごく面白かったです。この映画に出てくる捨て猫が、どことなく曇竹さんに似ている気がして。曇竹さんって何て言うか…捨て猫顔ですよね?」
それはよく言われる。"拾ってください"と書かれたダンボールから顔を出して、雨に打たれながら…って何を自分で言っているんだ。
「そうだ、次に何を借りようかまだ決めていなくて。また何かお勧めの映画とかありますか?」
「あ、それなら『クレイジーピザキャンプ3』とかいかがですか?元気がない時に、何も考えずに見れる感じがお勧めです。」
「いきなり3ですか?(笑)1と2は?」
「1と2は見なくても大丈夫です。」
「そうなんですね(笑)ちなみにどんな内容なんですか?」
「1はまだストーリー性がありますけど、2は、2は‥あれ…?」

なぜだろう。『クレイジーピザキャンプ2』の内容が全く思い出せない。おかしいな。前に見たことがあったはずなのに…。

「と、とにかく3がお勧めです…それと、よかったら僕のSNSも見てみてください!結構お勧めのムービーとか呟いてるんで。」
「それは是非!アカウント名は?」
「…トゥm○※♪★です。」
「え?」
「あははは(笑)‥トゥモr ○※♪★ですっ!…ちょ、恥ずかしいですね?!…下の名前がアシタっていうんで、Tomorrow Boy…」
「ぼ、ぼーい?」
「っ!Boyはもう、Tomorrowだけだと短いから、何でもいいやボーイだし!くらいのノリで…」
「わかりました(笑)フォローしておきますね。」

なぜ思い出せないのだろう…何だか気持ちが悪いし、もやもやする。…そういえば、ついこの間一つ気になったことがある。僕は昔から日記をつけているのだけど、1年前から遡って2年間日記をつけていないことに気が付いたのだ。このもやもやも、その事と何か関係があるのだろうか…。
平凡な毎日がずっと続くと思っていた。だが、この時の僕はまだ知らない。これから始まる、夏のちょっとした大冒険のことを。

 

「ただいま〜。」
帰宅すると、飼い猫のケケがいつものように出迎えた。側に落ちていた猫じゃらしを拾って、背中に隠しこっそりと取り出す。
「ケケ?…ほらっ!ほらほらほら…お前は本当にこれが好きだな〜、俺も猫になってお前と遊んでみたいな。」
ケケと戯れるこの時間が大好きで、仕事の疲れもケケの可愛さですっかり忘れてしまう。だけどなんだか、今日はいつも以上に疲れたな。ふと、デスクの上に栄養ドリンクが置いてあるのを見つけた。あれ、栄養ドリンクって賞味期限あるっけ…まぁいいや、飲んじゃおう。
「ん、何か書いてある。ヒント3…?…あっ!」
思い出した。先日見つけた、ヒント1を。それは、元気がない時に読む本に仕掛けられていた。ヒント2がない。栄養ドリンクも、この本も、元気がない時に必要なものだ。僕が、元気がない時にすること…疲れたなぁ。
「…あった!」
ベッドに仰向けに寝転がると、天井に何か貼ってあるのが見えた。
「"元気のないお前へ"…?」
そう書かれたメモには、ドリンク、本、そしてもう一つ丸い物体の絵が。
「うちにあって丸いもの…ムービーディスクだ!」
だとしたら、元気がない時に見るムービーといえば…まさに今日、千住さんにお勧めした『クレイジーピザキャンプ3』。探して確認すると、それがまさしくヒント2だったのだ。

「でも待って…これ何のヒント?そもそも誰がこんな…ひょっとして誰かが家に入って書いたとか?それか友達…いや、まず友達がいない。それに…見れば見るほど俺の字っぽいな。俺が書いたの?俺が書いて…仕掛けたの…?」
もう何が何だかわからなかった。
その時ふと思いつく。SNSで呟けば、誰かが協力してくれるかもしれない。
「フォロワーの皆様へ。日常生活を送っていたら、突然謎とヒントが出現しました。わかる人いますか?DM待ってます。」
メモの画像を添付し、文章を投稿した。
「ケケ、俺頭いいだろ!ミステリームービーが好きな人だったらわかるかもしれないでしょ?よし、送信。…この謎は、僕が必ず解いてみせる。じっちゃんの名にかけ…」

\お風呂が沸きました/

「なんちゃって!(笑)ケケ、お風呂入ってくるね〜。」

アシタが部屋をあとにすると、
「とうとう気付いたか…」
アシタがいない間だけ言葉を発することができるケケが話し出す。そして、ケケの友達であり、謎解きの手助けをする謎の男がどこからともなくやって来て、2人は様々な会話を繰り広げる。

「君のご主人様はいよいよ動き始めてしまったようだね。…応援するの?」
「…うん!でもそれが本当にアシタにとって良い結果になるのかな。」
「神のみぞ知る、か。」
「変なの。君が神って言葉を使うなんて。だって君は…」
「あぁ!いいじゃないか。今は仕事じゃなくて、君の友達として来ているんだから。」
「僕、横で見てて全然わからなかったんだけど、なんで部屋中に謎があるの?」
「あ、ちなみに、謎とヒントを見つけやすい位置に置き換えたのはこの僕さ。」
「え?!どうしてそんなこと…」
「君が相談してきたんだろ?最近のアシタは何だか元気がないって。それで僕がひと仕事してやったってわけさ。まぁとりあえず答えを考えてみよう。」

アシタがお風呂からあがり部屋に戻ると、SNSに先程投稿した謎についての回答メッセージがたくさんの人から届いていた。
「わ!もうこんなに返事が来てる…皆すごいなぁ。"公園のベンチ"が答えか。きっとあの公園のことだろうなぁ。明日行ってみよっと。」
ほんの少しだけわくわくした。公園のベンチには一体何があるのだろう。

 

翌日。
「店長!あの、今日はこれで早退させていただきたいんですけど…」
「早退?どっか体調でも悪いんか?」
「あ、いや、その、えっとー…」
「そうか〜。気付かず、すまんかったな?」
「あ、いや違うんです…体調は大丈夫なんですけど、その…どうしても見たい映画がありまして…」
「え、映画?」
だめか…?さすがにそんな理由じゃだめか…でも、公園に行きたいなんて…
「うん、ええよ。」
「えっ!本当ですか?!」
「お前が頼み事するなんて珍しいからな…ええよ。行って来い。」
「あ、ありがとうございます!…では。」
よかった…怒られるかと思った。エプロンを取り、休憩室に向かおうとすると、店長が何やら話し始めた。

「実はなぁ?今日うちに娘が遊びに来るねん。」
確か店長は離婚されていたから、元奥さんと娘さんとは別々に暮らしているんだった。
「小学2年生やねん。もう、えっらい可愛くてなぁ?久しぶりに会うねん。」
ちょっと店長、全然帰してくれないじゃん。
「あの、僕早退していいんですよね?」
「ええよ、もちろんええよ。ただなぁ…よし決めた!もう今日は店早めに閉めるわ!」
「え(笑)」
「俺も帰ろ!あ、そうや。なぁアシタ、小学2年生の女の子にお勧めの映画ってあるか?」
「はい、ちょっと考えてみます。」
その後も店長に映画をお勧めしながら、立ち話も長引いて、ようやく早退することができた。

 

公園に着いた。目的のベンチを探ってみると、ベンチの板が1枚…
「と、取れた?!」
その板の中を見てみると、何やらプレートのような物が出てきて、そのプレートには、"お前さえ消えれば"と書かれた付箋が貼ってある。
「お前…って僕のこと?」
何だこれ。お前さえ消えればって何だよ。何でこんなこと言われなきゃいけないんだよ。て言うか、そもそもお前が誰だよ。
「誰なんだよ?!」
「俺だー!!」
思わず声を上げると、後ろからいきなり大きな声がした。驚いて振り返ると、そこには千住さんが立っていた。
「わあぁ!!びっくりした…って千住さん?!どうしてここに?」
「すみません(笑)この近所に住んでて、たまたま通りかかったので。何かイライラしているように見えたので、明るく声かけてみたんですけど…」
「もしかして、いろいろ聞こえちゃいました?(笑)」
「うーん、少しだけ?(笑)」
恥ずかしいなぁ。僕がブツブツ独り言を言っていたのを、まさか誰かに聞かれているなんて。
「曇竹さん。もし何かあれば、僕で良かったらお話聞きますよ?ちょうどこれから、行きつけの焼き鳥屋さんに飲みに行くところだったんです。ご一緒にいかがですか?」
「お気持ちありがたいんですけど、これは僕自身の問題なので、大丈夫です。すみません。」
「そうですか。ではまた…」
「…あっ千住さん!やっぱり、飲みには行きたいです!(照)」
「もちろんです。よし、じゃあ行きましょうか!」
その後、千住さんの行きつけの焼き鳥屋さんで、久々に誰かと外でお酒を飲んだ。話し込んでいるうちに楽しくなって、僕も千住さんも相当酔っ払っていたと思う。

 

「ただいま〜♪」
いつも通り駆け寄ってきたケケをすかさず捕まえる。
「ケケ聞いて?なんとね、俺…珍しく人と飲み行っちゃいました〜!いや〜楽しかったなぁ、しかも!何か…友達?できちゃったかも…!やばっ!えー!どうしよう!…ん、もしかして嫉妬してる?だ〜いじょうぶ!ケケが1番だよっ。」
フラフラとベッドに座り込み、ポケットに手を突っ込むと、夕方ベンチで見つけたプレートが手に当たる。せっかく楽しい気分になっている僕に水を差すように、あの"お前さえ消えれば"というメッセージを思い出し、プレートを取り出す。
「冷めるわー。」
意味不明かつ恐ろしい文章に苛立ちさえ覚える。だが、最初の3つのヒントと同様にこの文字も、
「俺の字っぽいんだよなぁ…」
とさらに奇妙に思う。

プレートをいじっていると蓋が取れ、これは入れ物であったことと、中にUSBメモリが入っているのを発見する。
「うわ!ガチの謎じゃん!なんか…『ミッションノットポッシブル』みたい!テンッテンッ♪」
映画のテーマBGMを口ずさみ、わくわくしながらUSBをパソコンに差し込むと、そこには謎の数字が書かれた画像が1枚。
「え、情報これだけ?…だめだ全くわからない。酒入ってるし。…あ、そうだ!」
僕はパソコンの画面と、"お前さえ消えれば"の文字を写真に撮り、昨日、公園のベンチと謎を解いて、答えをメッセージで教えてくれた親切なフォロワーさんにその写真を送信した。その後、猛烈な眠気に襲われ、パタリと寝てしまった。

アシタの寝息を聞いて、ケケが口を開き、あの謎の男もやって来た。2人の間で再び会話が繰り広げられる。
「こんばんは、ケケ。君のご主人様は引き返さないみたいだね。」
「でも僕とっても心配だな。この謎解きが始まってから、アシタなんだか妙に元気なんだけど、最後に待っているものを手にした時、アシタはどうなっちゃうのかな。」
「止めるの?」
「そうじゃないけど、ただ、本当に全てを知る意味ってあるのかな?」
「なるほどね。」
「だけど僕は猫だもん。話しかけられるわけじゃないし。一生懸命伝えても、餌を欲しがってると思われるだけだよ。」
「わからないよ?言葉は通じなくても、想いは通じるかもしれない…さぁ謎を解こう。」

「…はっ!やべっ寝てた…」
スマートフォンの画面を見ると、時刻は深夜を指していた。
「良かった、まだ夜か。あっ、もう返事来てる!」
ふと先程写真を送ったフォロワーさんからメッセージが届いていることに気付き、確認すると、"洋画のコーナー"という文字が送られてきている。それはきっと僕が働くショップの洋画コーナーを示しているのだろう。
「明日見てみよう。」

 

翌日。店長が他のお客さんと話している隙に、僕は洋画コーナーをくまなく調べた。しかし、夢中になっているうちにDVDを一つ落としてしまい、その音を聞いた店長が不審そうな顔で僕を見る。まずい。僕は思わず変なポーズで固まる。
「何してんねん。」
この状況で僕が咄嗟に思い付いた言い訳は、
「洋画のコーナーと一体化してました。」
「…は?」
「いや、その、一体化することで、洋画コーナーの気持ちがわかるかなって!」
「何がしたいねん…はよ降りてこい(笑)」
なんとかその場をしのいだ。
「あ、せや。昨日の映画どうやったん?」
「…え?」
「昨日早退したやんか。何の映画見に行ったん?」
昨日、店長に映画を見に行くと嘘をついて早退したことをすっかり忘れていた僕は、慌てて誤魔化す。
「えっと…『君ん家の水道を止めたい』です。」
「何やそれ。そんな映画聞いたことないぞ?チケット見してみ。」
「チ、チケット?」
もちろん持っていない。なぜなら見に行っていないから。
「あー!そうだ。あれ〜?どうしたんだっけ…クソー!…チケット失くしちゃって。」
「嘘ついてるやろ。」
間髪を入れずに突っ込まれてしまった。
「何やねん、探すフリして。わざとらしかったでー?もうええわ。」
「すみません。」
怒らせてしまったかな…。店長が、僕が落としたDVDを拾う。すると、
「ん?何か紙出てきたぞ?"公園のベンチの下の下"…?何やこれ。」
「っそれ!!…ていうか、また公園のベンチ?下の下ってことは、ベンチの下を掘ればいいのか!」
店長が見つけたメッセージは、きっと洋画のコーナーに隠されたヒントだった。
「一人で何言うとんねん。」
「あ、いや、何でもないです。」
「アシタお前最近なんか様子おかしいで?あんま悲しませんといてな。俺はお前のこと家族同然やと思ってる。ムービーを一生懸命お客さんに勧めとるあんたが息子のように愛おしいねん。まぁ話せない事情があるなら仕方ないけど、何かあったらいつでも相談してな。」
「店長…」
僕は自分の日常をつまらない毎日だと思っていた。でも、身近な人と最低限のコミュニケーションしか取らず、自分の毎日を退屈にしていたのは僕自身だった。店長がこんなに良い人だということも知らずに。
僕は思い切って、この数日間で起きたことを店長に話した。

「そうかぁ…そんなことがあったんか…。それで公園のベンチの下を掘れば、また新しく何かわかるかもしれんっちゅうことか。」
「はい。それで…」
「今日も早退したいんやろ?」
「いいんですか?」
「ええよ。アシタが探してるもん、見つかるとええな。」
「はい、ありがとうございます!」

 

今日も早退させてもらい、公園に着いた。
DVDの中から見つかった、"公園のベンチの下の下"というメッセージ通り、ベンチの下をスコップで掘ってみると、カチャンと何かに当たる音がした。手で土を払い見てみると、お菓子の缶のような箱が埋まっていた。僕はそれを掘り起こし、恐る恐る缶の蓋を開けてみた。すると中には写真が1枚。その写真はなんと、僕と見知らぬ女性とのツーショットだった。
「これ、誰…」
全く知らない女性が、とても仲良さそうに…まるで恋人同士のように僕と写真に映っていた。これが僕であることに間違いはない。この写真で僕が着ている洋服は、今はもうだるだるになって部屋着として使っている。
問題は隣の女性だ。僕が本当に知らないのか、それとも覚えていないだけか。忘れてしまっているだけなのか。ひょっとしてイタズラ…?いや、イタズラにしてはたちが悪すぎる。
「誰だよ…誰なんだよ?!」
「俺だー!!」
思わず声を上げると、昨日と全く同じ流れで、全く同じタイミングで後ろから声がした。振り向くと、またしても千住さんが立っていた。

「千住さん…!」
「曇竹さん、またそんなに大きな声出して、何かあったんですか?」
「あの、ベンチの下にこの缶が埋まっていて、中を開けたらこの写真が出てきたんですけど…この隣に映ってる人のこと、僕全然知らなくて…」
「写真…ですか…?」
そう尋ねた千住さんの顔はたちまち曇っていき、写真を凝視したまま黙り込んでいる。もしかしてこの人のこと何か知っているのかな。
「千住さん…?」
「…え。」
「僕、わからなくて、この人のこと…。知らないのか、それとも覚えていないだけなのか、でも、どっちにしろ何でそんな人とこんな仲良さそうに…!」
「曇竹さん!落ち着いて。ちょっとこの写真見せてください。」
パニック状態の僕を千住さんがなだめる。僕は写真を渡した。
「曇竹さん、もしかしたら疲れているのかもしれない。あまり深く考えすぎない方が…」
「いやでも考えちゃいますよ。だって、この写真の僕が着てる服、今部屋着にしてるやつなんです。だからこれ昔の僕なんですけど、僕何も知らなくて…」
「覚えていないことを無理に思い出さない方がいい。」
「でも!」
「覚えてないってことは!それだけ辛い過去だったんです。トラウマになるくらい辛い過去だったんでしょう。きっとろくなやつじゃないんですよこの人は!…ごめんなさい曇竹さん、私は今のあなたしか知らないけど、今のあなたを守りたいんです。」
千住さんは明らかにいつもと声のトーンが違い、動揺している様子だった。もしかして何か隠してる?いや、そんなわけないか。千住さんと僕は店の店員と常連客で、たった一度飲みに行っただけの関係だから。
「この写真、一旦僕が預かってもいいですか?」
「え、なん…」
「こうゆう写真を部屋に置いておいても良いことなんてない。きちんと保管しますし、タイミングを見て必ずお返ししますので。」
「わかりました…」
戸惑ったが、この写真を見るのは相当ショックなことで、到底僕一人で受け止められるものではなかったため、むしろ有り難いと思い写真を預けた。すると千住さんが突然僕を抱きしめた。
「大丈夫。曇竹さんはきっと大丈夫です。」
「あ、ありがとうございます…?」
千住さんと別れた僕は、もやもやした気持ちのまま帰宅した。

 

「ただいま。」
この数日間、自分の周りでいろいろなことが次々に起こって、なんだかどっと疲れが出てきた。僕を見つめるケケも、どことなく心配そうな表情に見える。何かをする気力もなく、ただなんとなくSNSで自分の投稿を見返していた。すると、ある投稿をシェアしていることに気付いた。
「ん、何だこれ?…ウェブCMか。」
気になってその広告を再生してみると、それは、"記憶消去サービス メモリーホワイトニング"のプロモーションだった。

〜♪ 世の中、良いことばかりじゃありません。前を向いて進みたいのに過去のトラウマや悲しい経験が、あなたをがんじがらめにする。あぁ辛い!…そんな時は弊社の記憶消去サービス、メモリーホワイトニングがお勧め。今なら初回無料サービス受付中!〜

広告を見終わった僕は確信した。
「…多分、俺これやってるわ…!」
僕はこのサービスを利用して、恋人であっただろう、あの写真の女性との記憶を自ら消去したのだと予想した。記憶を消去した肝心の理由はわからないが、もしかしたら千住さんが言っていたように、その彼女はろくなやつじゃなかった…からなのかもしれない。それとも、恋人に振られて辛くてメモリーホワイトニングの施術を受けたものの、未練があって自分で自分に謎を仕掛けた…のかもしれない。だとしたら情けなさすぎる。とにもかくにも、僕は本当にこのサービスを利用したのか、電話でメモリーホワイトニングに直接問い合わせてみることにした。

「あ、もしもし?あの僕、もしかしたら過去にそちらのメモリーホワイトニングの施術を受けているかもしれなくて、その確認を…え?個人情報なので教えられない?…ですよね、すみません。あ、ホームページからアクセスすれば見られるんですね?わかりました、やってみます。」
電話を切り、早速ホームページにアクセスしてみるが、
「パスワードか。…違う。…これも違う。」
思いつくものをいくつか試してみたが、どれを試してもログインできなかった。するとその時、ガチャン!と大きな音がして、振り返ると、公園で見つけた缶が床に落ちていた。落としたのは恐らくケケだろう。落ちた衝撃で開いた缶の蓋の隙間から、缶の底にメッセージが書いてあるのが見えた。
「"お前の畳み方と、もう一人の畳み方、順に読め"…え?」
さっぱりだった。するとケケが何かを咥えて僕の元へやって来た。
「あ、そうか!これのこと?」
ケケが咥えていたのは、あの写真に映っている僕が着ていた部屋着だった。きっとこの服を、僕のやり方と、別のもう一人のやり方で畳めばいいのだ。でも、
「もう一人って誰だよ…」
僕はもうお手上げだった。ここ数日間で起きた出来事だけで、すでに頭はいっぱいだった。考える余力もなく、僕はまたあの親切なフォロワーさんに協力を求めることにした。缶の底に書かれたメッセージと、部屋着の写真をダイレクトメッセージでフォロワーさんに送信する。
「にゃあ。にゃあ。」
今日はケケが僕の側をくっついて離れない。それに、ケケが缶を落としたのも、部屋着を咥えて持って来てくれたのも、偶然にしては出来すぎている。まるで、僕に降りかかる謎を一緒に解いてくれているようだ。黒い毛並みを優しく撫でる。
「ケケ、ありがとね。」
「にゃあ。にゃあ。」
ケケが何かを必死に訴えている気もするが、
「何?お腹空いたのか?わかった、おやつ買ってきてあげる。いい子で待ってるんだよ。」
コンビニに出かけるアシタをよそに、
「やっぱり伝わらない…」
とケケがため息をつき、謎の男も合流。

「こんばんは!ついにここまで来ちゃったね。ていうか、君のご主人様は全然自分で謎を解かないよね。」
「アシタはそうゆうの苦手なの。」
「みたいだね。さぁ謎解きの時間だ。」

「ただいまー、ケケー?生タイプの缶詰買ってきたよー。俺のアイスより高かったんだからな?」
コンビニから帰ってくると、もうあのフォロワーさんから返事が来ていることに驚いた。
「答えは、"天井"…?」
急いでベッドの上の天井を見るとそこが開くことに気付く。
「開いた?!うわーまじかよこの人…神じゃん。神って呼ぼ、この人のこと(笑)」
開いた天井から出てきたのは、僕が1年前から遡って2年間つけていなかったはずの日記だった。
「あった…こんなところにしまってたんだ…。そもそも、僕はあの2年間もちゃんと日記をつけてたんだ。」
ずっと見当たらなかった日記が見つかった今、改めて中を見るのは怖かった。なぜなら、あの2年間もしっかりと日記をつけていたこと自体覚えていないし、覚えていたとしてもわざわざ自分で隠すなんて…何か理由があるに違いない。でもやっとゴールに辿り着いたんだ。これが謎とヒントの答えなのだろう。

「…よしっ。」
意を決して中を開こうとすると、鍵が掛かっていることに気付いた。4桁の数字を入れる南京錠。そして、日記の表紙には"birthday"と書かれていた。僕は試しに自分の誕生日である"1122"の数字を入れてみたが開かず。
「ですよね。じゃあやっぱり元恋人の誕生日か…」
そう推測できても、今の僕が知っているの彼女の情報は、顔写真と、服の畳み方だけだ。そして何度試しても、メモリーホワイトニングへログインするパスワードはわからない。彼女に関する記憶を全て失っている僕には、パスワードも鍵の番号も見当がつかなかった。
その時、日記に挟まっていたメモが1枚ハラリと落ちる。そのメモにはこう書かれていた。
「"僕たちの出会いは映画館だった。たまたま隣に座った君と僕の笑いのツボが全く一緒だったんだ。"…すげー良い出会いじゃん!じゃあなんで記憶消したんだ?」
新しく情報を得ることができたが、それでもまだ答えを導くことはできず、途方に暮れていると、店長から電話がかかってきた。

「もしも〜し?なぁアシタ今暇か?一緒に飲もうや、お前ん家行ってもええか〜?」
「もしかして酔ってます?」
「いやいや、酔ってへんて!」
耳元に、もうすでに飲み潰れているであろう店長の声が響く。
「なぁ行ってもええやろ〜?」
そしてよく聞くと、その声はすぐ側からも聞こえる。
「あの…ひょっとしてもう家の前まで来てます?」
ピンポーン♪と家のチャイムが鳴る。まったく…今どうやって断ろうか考えていたのに。仕方なく玄関のドアを開けると、缶ビールの入ったビニール袋を持ったベロベロの店長が、だいぶフラつきながら入ってきた。
「ちょ、店長(笑)こっちです…ていうか、何で僕の家の場所知ってるんですか?!」
「アホか、履歴書に書いてあるやろお前(泣)」
履歴書で店長に自宅を特定されてしまったのか僕は。
「まず涙拭いてください。何があったんですか?」
「実はなぁ、俺の奥さんおったやろ?…再婚すんねんて!(泣)」
「あぁ…」
「もう俺しんどくて…飲もう!ほれ、アシタお前励ましてくれや!(泣)」
離婚されて、奥さんと別居中だった店長の唯一の救いは、小学2年生の娘さんだったはず。でも、奥さんが再婚されるとなると、その娘さんには新しいパパが…。飲みたくなるわけだ。にしても、ついこの間まで店長の家に娘さんが遊びに行っていたのに、かなり急展開だな。
「ん…?グスッ、なんや鼻かゆい。あかん…ハクション!」
「ちょっと大丈夫ですか?もう…風邪ひいたんじゃないですか?」
「いや、そんなわけ…」
「にゃあ。」
ケケが僕と店長の間から顔を出す。すると…
「待て…俺なぁ、猫アレルギーやねん…」
「え?!」
「あかん、アシタここあかんわ、外で飲も。」
「え〜…もう、ちょ…絶対大きい声出さないでくださいね?1杯だけですよ?!」
仕方なく僕は、先程見つけたメモの写真を急いで神に送信し、猫アレルギーの店長を介抱しながら外に飲みに行った。

ドアが閉まったのを確認すると、謎の男が現れてケケに言った。
「やぁケケ、いよいよ謎の方は大詰めじゃないか。メモリーホワイトニングにログインできるかな?」
「僕はいつでも戦闘態勢だよ。」
「それは結構。…ていうか、そもそも君はなんであの人の誕生日を知らないの?もともと君のもう一人のご主人様だったじゃないか。」
「知らないよ。誕生日を知ってる猫なんて聞いたことない。」
「それで言ったら、謎解きをする猫も聞いたことないよ(笑)」
「誕生日がわからないならどうしようもないじゃん。教えろよ、君なら知ってるだろ?!」
「落ち着けよ。」
「僕はアシタを助けたいんだ!」
「実を言うと…僕も知らないんだ。」
「え…!じゃあ何かの奇跡が起きるのを待つしかないね…」
「大丈夫!何度も親切な人が助けてくれただろ。きっと今回も…」

「思いのほか話し込んでしまったな…」
なんとか店長に帰ってもらい、部屋に戻ってデスクに向かうと、神から返信が来ていることに気付いた。それは…
「この数字って…」
神から送られてきたのは、神は本来知るはずのない元恋人の誕生日だった。
「…ちょっと待って。これが日記の鍵の番号?どうしてこの人にわかったんだろう…」
その番号を恐る恐る入れると、
「…開いた…なんで。」
もやもやするが、ついにここまで来た。僕と彼女の間に一体何があったのか。なぜ僕は記憶を…
「よし。」
心を決めて、勇気をだして、僕は日記を開いた。

それからどれほど時間が経っただろう。僕は夢中で日記を読み進めた。そこには、僕と元恋人のかけがえのない日々が綴られていた。一緒にムービーを見たり、新しく出来た食堂に2人で行ったり、ケケを拾って一緒に飼い始めたこと…その他多くの、一緒に笑ったことや喧嘩したこと、そして、なぜ僕たちが今一緒に居ないのか…その理由が書いてあった。なのに…こんなに大切なことなのに、何も思い出せない。僕はそっと日記を胸に当てた。
「ケケ、お前は知ってたんだね。ここに書かれてる人のこと。」
「にゃあ。」
必死に笑顔を作ったが、苦しくて胸が張り裂けそうだった。

ここまでダイレクトメッセージで答えを送って、僕を助けてくれた神にお礼を言おうとすると、なぜか神のアカウントはすっかり消えていた。
「え…なんで。どうなってんだよ…」
背筋が凍る感覚に襲われる。本当に不思議な体験だったな。神、いや、あのフォロワーさんは一体何者なのだろう。
日記の最後のページを開くと、そこにはメモリーホワイトニングへのアクセス方法も書かれていた。僕は記憶を消去した後だから、恐らく彼女が記したのだろう。パスワードの代わりに質問に答えるみたいだ。質問の内容は、"一番記憶に残っている映画は?"。答えは、俺と彼女が出会えたきっかけの映画である『クレイジーピザキャンプ2』だ。入力してログインすると、マイページに僕の施術のカルテが出てきた。

彼女は今この世に居ない。
あの人の提案によって僕はメモリーホワイトニングの施術を受ける決意をした。"僕には前を向いてほしいから"…。あの人は病気で、死を待つことしかできなかった。それが僕にとっては、あの人との記憶を忘れて失くしてしまいたくなるほど辛かったのか…。だけど、それほどまでになってしまうくらい、あの人は僕にとって大切な存在だった。ならばそんなに大切な人を、忘れてはいけないのではないか。あの人との思い出を失くしてはいけないのではないか。日記の文面だけじゃわからない部分に触れたい。あの人と僕がどうやって出会い、どのように同じ時間を過ごしてきたのか。あの人のことを知りたい、見えない部分を感じたい。
「ケケ、俺…明日行ってこようかな。…いいよね?」
「にゃあ。」
僕は、もう一度メモリーホワイトニングに行こうと決意した。失ったあの人との記憶を取り戻すために。

 

翌日、僕は店長にメモリーホワイトニングのことを打ち明けた。
「そんなことがあったんや…すごい時代やなぁ。ほんまに記憶消せるんか?その記憶ってほんの一部でもええんか?」
「いや、それはわからな…」
「ほんなら俺もやるわ。痛かった?」
「覚えてないです。記憶消したんで。」
「何かカプセルみたいなのに入るん?」
「覚えてないです。記憶消したんで。」
「料金は?」
「いやだから、覚えてないんですって!」
「何の役にもたたんな。」
「消したのはすごく大事な記憶で…だからその…」
「もう細かいこと言うな。今日は休んでええ。アシタ、後悔だけはしたらあかんで!」
「…はい!」

 

今日も早退させてもらおうと思っていたけれど、優しい店長のおかげで今日1日休みになった。
モリーホワイトニングに到着すると、白衣姿の千住さんが立っていた。
「曇竹さん…」
「どうも。」
「来てしまいましたか。」
「はい。」
「驚いたでしょう。私がここの人間だと知った時は。」
「…はい。」
「記憶を消したクライアントのその後の生活に副作用が起こっていないか見守るのは、我々の仕事の一つなんです。」
「そうだったんですね。」
「…申し訳ありませんでした!」
「なんで謝るんですか?」
「あなたを過去の記憶から守りきれなかった。もちろんこれからまた記憶を消すことも可能ですが…」
「いいんです!…僕の恋人がまだ生きていた頃の日々を綴った日記を読みました。全く覚えてないけど、僕は前にもここで千住さんと会っているんですよね?」
「はい。」
「そして、僕の隣にはあの人がいた…」
「曇竹さん。あなたの恋人はとても素敵な方だった。そして、あなた方はとても素敵な恋人同士だった。神様とは不公平なものです。あんなに素敵な方を…」
「日記によると、突然告げられたお医者さんからの余命は半年でした。僕たちは本当に仲が良かったみたいです。料理の好みも、笑いのツボもピッタリで、恋人同士であり親友みたいだったって。ありふれた日常だけど、それが幸せだったって…。なのに、何も覚えてないんです。」
「辛いですよね…」
「施術の提案はあの人がしてくれたって日記には書いてありました。あの人との記憶を消した方がいいって。僕には前を向いてほしいからって。それで約束したんです、記憶を消すって。…でも、僕は忘れたくなかったからっ!わがまま言って、もし奇跡が起きたらまたあの人のことを思い出せるようにって、一緒に謎を仕掛けたんです。その作業がとても楽しかった…って…日記には書いてありました。…感じたいです、あの人のこと。」
「曇竹さん…」
「僕の記憶を戻してください。」
「本当に良いんですか?」
「…お願いします!」
「本当に良いんですか?…って、記憶を消す時にも聞きました。なんか…嬉しい…。僕も辛かったですっ!お写真お返しします。とても素敵な方だったし、亡くなった方のことを"ろくなやつじゃないんですよこの人は!"とか言うの…辛かったです(泣)」
「すみませんでした!(泣)」
「いえいえ…どうぞ、お座りください。曇竹さん、この部屋は防音になっているので安心してください。ご自分のお部屋だと思って。」
「…え?」
そう言って、千住さんは部屋から出て行き、僕は施術室で一人きりになった。

僕は椅子に座ったまま、暗い部屋でその時をじっと待った。しばらくすると、急に天井が眩しくなり、物凄く強い光が走って僕は思わず目を瞑った。頭が大きく歪んだかと思ったら、空っぽだった僕の2年間の記憶が、まるでパズルのピースが1枚ずつはまっていくように…僕の頭の中にあの人との思い出が少しずつ蘇って…。
「…うっ。」
映画館で出会った日のこと、ケケを拾って一緒に飼い始めた日のこと、誕生日を祝ってもらったこと、病気がわかって一緒に泣いたこと、2人で謎を作って仕掛けたこと…2年間の記憶が鮮明に蘇って、その時の出来事を今実際に体験しているかのような感覚に陥って、いろいろな感情が混ざって、苦しくて悲しくて悔しくて辛くて…。
「…うっ……………っ…………ひくっ………ひくっ……」
僕は写真を胸に抑えながら、堪えきれず声を上げて泣いた。

どれほど時間が経っただろう。僕は全てを思い出した。変な話だけど、あの人のことを想ってちゃんと泣けるのが、嬉しかった。今までずっと抱えていた心のもやもやが、少し晴れた気がした。

 

数日後。
「こんばんはケケ。その後ご主人様はどう?」
「たまに日記を見ながらわんわん泣いてるけど、それを含めて、"生きてる"って感じだよ。」
「素晴らしいね。」
「ところで死神くん?」
「何で急に役職で呼ぶのさ。ここには仕事で来てるんじゃない。君の友達として来てるんだから。」
「僕のもう一人のご主人様は、あの世で楽しくやっているの?」
「それは僕の知るところじゃないけど、こっちの世界で死ぬっていうことは向こうの世界で新たに生まれるっていうことだからね。僕だって、あっちでは天使って呼ばれてるんだから。」
「それじゃ、あの人は向こうの世界で生きてるってことだね。」
「そうゆうこと。」
「たまにはこっちの世界のこと、思い出してくれるかな。」
「それはないだろうね。人間は向こうの世界でオギャーと生まれた瞬間にこっちの記憶は全部消えちゃうんだ。」
「そんな…」
「でもわからないよ。こっちの世界にも、向こうの世界にも、奇跡はあるからね。」
「…そう言えば、アシタと一緒に謎を解いてくれた人がいたんだけど。アシタはその人がね、」
「その人が?」
「…まぁいいや、今アカウントを探してるんだけど、全然見つからないんだって。」
「不思議だね。ひょっとして…」
「奇跡が起きたのかな。」

 

今日も僕は、このレンタルムービーショップで働く。すると、千住さんが来店した。店長と僕は声を揃えて、
「いらっしゃいませ。」
と挨拶をした。
「あれ?なんか挨拶だいぶ静かめになりました?(笑)」
「店長、やっぱりこの方がいいですよね?」
「せやな。今までのが張りきりすぎたんや。…そう言えば、千住さんあんたメモリーホワイトニングの方やったんやね!なぁ、その記憶っちゅうのは一部だけ薄れさせることはできへんのか?」
「んー…それはちょっと(笑)」
「店長。記憶は消さない方がいいですよ。」
「なんか、アシタが言うと説得力あるなぁ(笑)」
「あはは。曇竹さんは、その後お変わりありませんか?」
「はい、お陰様で。…まだ時々思い出して、日記を読みながら泣いてしまうこともありますけど…でも、もう大丈夫です。」
「なんだかお顔がスッキリされましたね。僕、これからは曇竹さんのファンとしてお店に遊びに来ます。いいですよね?」
「もちろん。アシタはうちの看板店員やからね。」
「やめてくださいよ(笑)…そう言えば店員、娘さんとはちゃんとお別れしたんですか?」
「お前、今その話…よし!もう今日は記憶失くなるまで飲むで!なぁアシタ!」
「え〜(笑)…あ、千住さんも良かったらご一緒しませんか?」
「では、お言葉に甘えて。」

 

僕は今、ちゃんと生きてる。君の分までちゃんと。君と一緒に仕掛けた謎が、僕を導いてくれたんだ。もう忘れない。大丈夫、明日はきっと、今日よりもっと笑える。

「ありがとう。俺、前を向いて生きるよ。」